女子生徒の理系進学の基盤を作る
生命科学コースの開発
代表 ノートルダム清心学園 清心女子高等学校 秋山繁治
【目的】
本学園理事長シスター渡辺和子の著書唱かれた場所で咲きなさい』が累計で120万部を突破した。本の帯に、 「人
はどんな境遇でも輝ける」とある。シスターは、人は置かれた状況はそれぞれ異なっていても、今の立場で前向きに生
きてください。というメッセージを贈っている。このような本が爆発的に売れるということは、逆に言えば、今の社会
に生きる多くの人々が「今の置かれた場所でしっかり生きてください」という癒しのメッセージを求めている状況にあ
るということだと思う。しかしながら、今まさにこれからの人生を切り開こうとしている若い世代にとって、 「どんな
境遇でも輝ける」とは言え、より納得できる場所で、自分の才能を生かせることが理想である。もし「女子である」と
いう理由で、才能を伸ばすことが妨げられたり、職業が制限されることがあるとすれば、それは好ましいことではない。
本研究は、 「生命科学コース」の導入から出発して、女子の理系進学を支援し、将来、科学技術分野で活躍できる人材を
育成する女子教育プログラムを開発し、その成果を社会に提供することを目指した。
【経緯】
1990年代半ばから「少子化時代の生き残り戦略」として、多くの学校で学校改革が進められてきた。その結果、岡山
県内の女子校は2校のみになってしまった。女子校として存続しているのは、公立の伝統校と女子大をもつ学校、中高
一員の進学校である。今や女子校はマイノリティでしかないというのも事実である。男女共同参画を目指す共学校を標
準とする社会で、女子校が存在する理由となるような役割はあるのだろうか。従来の期待されていた教育、 " 男は仕事、
女は家庭" という性別役割分業を支える男女別学の教育では、現代社会のニーズには応えられない。女子校であり続ける
新たな存在理由が求められる時代になっているのである。
本校では1995年7月から1997年8月まで、 「西暦2000年に清心学園は何を提供できるか」を考える教育改革プロ
ジェクトチームが結成され、そのリーダーとして教育改革の方向性を示した。その延長線上に、女子生徒の理系進学支
援に特化したコースとして設定したのが「生命科学コース」である。
このような社会的な女子教育の趨勢と実際の本校の生徒の進路志向を踏まえて、医療関連分野に加えて、農学・生物
学などを含む" 生命科学" の分野への進学を支援するコースとして、 2006年度に「生命科学コース」は出発した。学校
設定科目「生命科学課題研究」を中心に「知識」 ・ 「体験」 ・ 「研究」を複合的に組み込んだ女子の理系進学を支援する教
育プログラムが特徴である。さらに、 2009年度からは、文理コースにも学校設定科目「数理科学課題研究」 ・ 「物質科
学課題研究」を追加し、数学・物理・化学分野の課題研究も選べる全校的な取り組みへと進化を遂げてきた。
【重要性】
日本の合計特殊出生率は2005年に過去最低の1. 26を記録した。少子化と高齢化が経済に大きな影響を与える時代に
突入している。女性が子どもを産まなくなったこともきっかけの一つだが、女作が子どもを産めば解決するような簡単
なものではない。ライフスタイルの変化やそれを支える社会サービス、医療技術の進歩など、原因は複雑に絡み合って
いる。ただ言えるのは、女惟が社会構造に大きな変化を与えている時代になってきたということである。つまり、女惟
パワーを取り込んだ社会システムの構築が必要とされる時代になったと考えられる。これまでの「女件の才能を伸拝す
ことを制限している」 「子どもを産み育てにくくしている」構造に風穴を開け、女惟の活躍を下支えし、支援する学校
教育プログラムが必要である。特に日本は国際的に比較しても「科学分野で活躍する女性が非常に少ない」という問題
【規模】
2006年度から教育プログラムに着手して2015年度でちょうど10年目を迎え、生命科学コースに限定されたもの
から学校全体の生徒に関わるものに拡大してきた。また、社会にその成果を情報発信すべく、全国の中高生や教育関係
者と共有するための交流会として、 2009年度から発表者を女性に限定した「集まれ理系女子! 女子生徒による科学研
究発表交流会」を始めた。目的は、①科学研究に取り組んでいる生徒の成果を広く社会に知っていただくこと、②女子生
徒のリーダーシップを養成することの2つである。中高生に混じって、若い女性研究者にも同じ形式でポスター発表し
ていただいているというのが大きな特徴で、身近なロールモデルになってくれることを期待している。
第1回から第5回までは地元で開催してきたが、今年度( 第6回) は、交流の輪を広げることを考えて京都大学で
開催し、 353人に参加していただいた。次回は慶磨義塾大学で開催することが内定している。 「女子生徒の理系進学支
援」を、全国に発信していけるイベントに育てたい。
【対象】
最初の段階では、生命科学コースの生徒を主対象にして、科学の課題研究に向けて教育プログラムを構築していった。
実施3年目で「生命科学課題研究」の取り組みが、研究発表会や学会での受賞や進路の成果につながったことをきっか
けに、文理コースの生徒対象に、化学分野を研究テーマにした「物質科学課題研究」と、数学・物理分野を研究テーマ
にした「数理科学課題研究」が生まれた。現段階では、高校2年生の段階で、どの生徒も選択すれば科学分野の課題研
究を選択できるシステムになっている。
【意義】
教育プログラムに盛り込んだ教育内容の重点は、①直接体験の重視、②リーダーシップの育成、⑨国際性の育成、④ロー
ルモデルの提示である。①②では、実験や実習で大学との連携した教育内容を盛り込み、③では、これまでの海外研修で
の経験を生かして、海外の大学と連携した研修を企画した。また、④では、本校の卒業生を含めた女性研究者を理数系
の授業や進路選択支援の教育活動に積極的に活用した。このような女子の理系進学を支援する教育プログラムを実施す
ることで、女子の理系選択に対する教員・保護者の理解、ひいては社会の意識改革が進むことに貢献できると考えている。
J ST 『未来の科学者養成講座開発支援プログラム5年間の開発成果報告』 ( 2013) に、大学が実施している小中高生
対象の科学教育では、 「男女によるプログラムの違いを設けている実施機関は特にない」とある。しかし、 「自分の理系
の才能に自信が持てたか」の問いに対する受講生の回答には男女差があり、肯定が男子29. 2%、女子13. 5%で、 「女子
は自信を持ちにくい傾向にあった」としている。そして、まとめとして「この傾向は、女性の才能育成とキャリア形成
に関わる問題として内外に指摘されていることと附合する」と明示されており、理系トップ人材育成事業においても、
女子の自信をどう育むかということが重要な課題の一つとして取り上げられている。
女子生徒は自然体験・実験体験そのものが少なく、小学校に入学した段階でも、理科実験で女子が補助的な役割をす
る傾向がみられるという報告がある。そして、学校教育で「女子は理科が苦手」というジェンダーバイアスがかかって
いるとの指摘もある。 「女子生徒の理系進学支援」は、文部科学省第4期科学技術基本計画の「女性研究者の活躍の促
【成果】
2006年に文部科学省スーパーサイエンス事業( SSH) の指定を受け、 SSH主任として9年間関わり、 「女子生徒の理
系進学支援」をテーマに取り組んできた。 2009年文部科学省ヒヤリング( 第一期) で「現段階では、当初の計画通り
研究開発のねらいを十分達成している」の評価をいただき、 2011年からさらに5年間の継続再指定を受け、文部科学
省ヒヤリング( 第二期) でも、同じく高い評価をいただいた( 2011年度指定校38校で「ねらいを十分達成している」
と評価されたのは9校、そのうち女子校は本校のみ) 。
また、生徒の科学研究においても、全国規模の科学コンテストで上位の成果を上げることができた( ※ 最後のページ
の一覧表) 。科学研究で芽が出そうもない地方の女子校でも、教育プログラムを刷新することにより、たった5年間で
科学研究で成果が出せる学校に変容することができることが証明できた。
【科学教育に対する思い】
私自身は、大学卒業時に研究を志すものの、経済的な理由で大学院進学をあきらめ、高等学校の教員として就職した。
40才過ぎた頃休職して修士課程は修了したものの学位の取得は断念していた。そんな時、大学の先生から「研究できる
環境がないなら、高校に研究できる環境をつくればいい」と紹介されたのがSSHだった。 SSHは、生徒の科学研究だけ
でなく、教師である僕にも科学研究の機会を与えてくれたのだ。そして、 SSH採択によって放課後コツコツと科学研究
に取り組む行為が、職場( 教育現場) で市民権を得ることができたことは、僕にとっての救いだった。教育現場では学
習指導と生徒指導が中心、部活動でも体育系が中心で、物理・化学・生物等、いわゆる理科( 科学) 系の部は細々と存
続していればいい方という状況だったからである。しかしSSHに取り組んで3年目の2008年に広島大学大学院理学
研究科生物科学専攻に入学し、生徒の課題研究の指導の傍ら自分自身の研究を進め、 3年後の201 1年に博士( 理学)
を取得することができた。在職したままでの学位取得の過程での苦労は、論文作成指導だけでなく生徒への指導にいろ
いろな面で生かされていると実感している。
「生命科学コース」の開設から始めた今回の教育プログラム開発については、 「数理科学課題研究」や「物質科学課題
研究」を設定する前の段階では、 SSH採択時のヒヤリングでも女子の理系進学支援が必要なのは「数学・物理・化学」
分野であって「生物」分野ではないのではないかという疑問を投げかけられることが多かった。そんな中、私は「生命
科学コース」の開設から始めたのである。その理由は次の3つである。①今から10年前は薬学部の新設などがあり、
医学系・生物系を中心に女子の理系進学が激増した時期であったので、この機会をとらえて女子の理系進学機運を高め
たかった。②科学技術者といえど生命科学に関連する「生命尊重」、 「自然保護」などの社会的な問題についての理解が
必要だと考えた。③生物( 生命科学) 分野は、高校生でも研究テーマを見つけやすいので科学の入り口になる。本校の
運営指導委員の元日本物理学会会長の坂東昌子先生が、本校の生徒の発表を聞いて「物理・化学に比べて生物は多様で
未知なことが多いので、高校生にはやりがいがあるだろう。意欲的に新しいことに取り組んでいるのに感心した」との
意見を述べられた。そして私の身近には、高校で生物部所属だったのに今では物理教師になっていたり、息子が高校で
は物理部所属だが生命科学専攻で博士課程に進学していたり、私自身も化学から生物科学に大学院で大きく研究テーマ
を変えているという状況がある。研究分野は、その人の心の底にどんなものに好奇心を持つかで決まってくると考えて
いる。理科は「数学」 「物理」 「化学」 「生物」に向かって基礎から応用へと複雑化していくが、縦割りに区別される「分
野」ではなく、相互に関連し合いながら自然を紐解くためのツールになるものだと理解している。
学問や研究には正解もなければ範囲などというものもない。むしろ既存の正解と既存の範囲から逸脱するところから
生まれる。学校で真面目に勉強をすれば不可避的に生ずる疑問や興味は、追求していくと教科書の範囲から逸脱するこ
とは避けられない。しかしながら、現在の入試による進学システムでは教科書の範囲を超えて勉強することは、不利に
なることはあっても有利になることはない。大学受験を意識した高校生は胸に抱えた疑問や興味を押し殺して、一定の
範囲内の知識だけを完全に覚えることを要求されることになる。十代の最も頭の柔軟な時に、重箱の隅をつつくような
ことをしなければならないのは幸いことである。だからといって「勉強なんてつまらない」と学問から離れていくのは
あまりにももったいない。バーバラ・マクリントック( 81歳でノーベル賞受賞) が、その人生を" ‖ 知的な感動" で支
えたように、高校を卒業していく生徒たちに、生命科学コースで体験した" 知的な感動' ' を大切にして、前向きに学び
【生徒の科学研究の成果】
2008年8月 2009年5月 2009年5月 2009年10月 2009年12月 2010年3月 2010年10月 2010年12月 2011年5月 2011年7月 2011年9月 2011年10月 2011年12月 2012年2月 2012年3月 2012年5月 2012年5月 2012年5月 2012年9月 2012年9月 2912年10月 2012年11月 2012年11月 2012年11月 2012年12月 2012年12月 2013年1月 2013年5月 2013年5月 2013年9月 2013年9月 2013年10月 2013年11月 2013年11月 2014年3月 2014年5月 2014年5月 2014年5月 2014年8月 2014年9月 2014年9月 2014年10月 2014年11月 2014年11月 2014年12月 2014年12月 2015年3月 2015年3月 2015年3月 2015年5月 2015年5月
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第104回日本食品衛生学会中学生高校生理科研究発表会 金貿
第104回日本食品衛生学会中学生高校生理科研究発表会 銀貿
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第21回高校生によるバイオ研究発表会バイオ甲子園2012本審査会 創立30周年記念奨励貿
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第29回日本霊長類学会・日本哨乳類学会2013年度合同大会 優秀貿 日本動物学会第84回岡山大会高校生ポスター発表 奨励賞
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